愛しきソナ

在日二世の映像作家ヤン・ヨンヒ(『ディア・ピョンヤン』)が 北朝鮮政府から入国禁止を言い渡されながら 愛する兄と姪のソナに贈る、15年の想いを込めたメッセージ。

北朝鮮に渡った兄と姪ソナの成長を記録した感動作!

大阪で生まれ育った在日二世の映像作家ヤン・ヨンヒが、朝鮮総連の元幹部で最も理解しがたい最愛の父への複雑な想いを、自身の家族の10年間の中に描いた前作『ディア・ピョンヤン』は、ベルリン国際映画祭最優秀アジア映画賞をはじめ、サンダンス映画祭審査員特別賞、山形ドキュメンタリー映画祭特別賞など数多くの賞を受賞し、世界中を笑顔と涙で包みこんだ。あれから5年、遂にヤン監督の新作が完成した。今回の作品は帰国事業によって70年代に北朝鮮に移り住んだヤン監督の3人の兄とその子どもたち、特に姪のソナにフォーカスを合わせ、近くて遠い二つの国をつなぐ強い絆と深い愛をめぐる、可笑しくも切ない家族の物語を描き切った。前作の痛快なインパクトとはひと味違う、心に染み入るような繊細な優しさが伝わる感動作だ。


愛する人たちが暮らすその地を想う時、私の心はいつも引き裂かれる。

ヤン監督は17歳の修学旅行で訪朝して以来、幾度となくピョンヤンを訪れている。生まれた頃から交流を続けてきたソナの屈託のない笑顔と成長を温かいまなざしで見つめながら、70年代に“地上の楽園”とされた祖国に父によって送り出された兄たちがたどった運命とその胸に秘めた想い、そして自分の息子を送り出しながらその後の思いもよらない状況に悔恨の念をにじませる父の心情と、その病床の姿を厳しい視線で映し出す。選択の機会が与えられない社会で生まれ育ったソナと、生まれた時から自由を謳歌しながら育ってきた自分を重ね合わせ、ふたつの国に暮らす自分の家族の生きざまを描きながら、そこには思想や価値観の違いを超えた、誰もが心の内に持っている家族への切ない想いが浮かび上がってくる。


誰も見た事のない北朝鮮の庶民の日常生活。

北朝鮮のイメージと言えば、声高に原稿を読み上げるニュース番組や一糸乱れぬパレードとマスゲーム、または潜入取材によって隠し撮られた極貧生活や脱北者の映像だろうか。日本で紹介されるのはセンセーショナルな映像ばかりで、庶民の日常生活はマスコミにとって面白味がないのかほとんどテレビで見ることはない。本作では一般庶民のホームパーティーや墓参り、結婚式の様子や、ボーリング場で遊ぶ姿、子供の登校風景など、北朝鮮で暮らす人々の日常のひとコマが数多く切り取られている。そして電気や水道、ガスの使用が制限されるなど、日本とは生活水準が大きく違うが、そこに暮らす人々の心の中はわれわれとあまり変わりはないという事が画面から伝わってくる。特に母を思いやる気持ちを歌った北朝鮮の曲を弾き語る姿には、誰もが心を揺さぶられるだろう。