海辺の生と死

そこは“神の島”―
はかない恋の一瞬のきらめきを描いた恋愛映画の誕生

昭和19年12月、奄美 カゲロウ島(加計呂麻島がモデル)。国民学校教員として働く大平トエは、新しく駐屯してきた海軍特攻艇の隊長 朔中尉と出会う。朔が兵隊の教育用に本を借りたいと言ってきたことから知り合い、互いに好意を抱き合う。島の子供たちに慕われ、軍歌よりも島唄を歌いたがる軍人らしくない朔にトエは惹かれていく。やがて、トエは朔と逢瀬を重ねるようになる。しかし、時の経過と共に敵襲は激しくなり、沖縄は陥落、広島に新型爆弾が落とされる。そして、ついに朔が出撃する日がやってきた。母の遺品の喪服を着て、短刀を胸に抱いたトエは家を飛び出し、いつもの浜辺へと無我夢中で駆けるのだった…。

〝感情のスペクタクル”へと誘う圧巻のクライマックス!
日常が激変する心理サスペンス

教師エマッドとその妻ラナは、小さな劇団に所属し、俳優としても活動している。ある日、引っ越して間もない自宅でラナが侵入者に襲われてしまう。犯人を捕まえたい夫と、表沙汰にしたくない妻の感情はすれ違い始める。やがて犯人は前の住人だった女性と関係がある人物だとわかるが…その行く手には、彼らの人生をさらに揺るがす意外な真実が待ち受けていた―。ゆるやかに理性をかき乱されていく夫婦を軸に、登場人物たちの思惑がスリリングに絡み合う心理サスペンス。復讐心に囚われたエマッドが〝犯人”と対峙するクライマックスは、怒りや不安、悔恨の情がドラマティックに錯綜し、圧倒的な緊張感で描かれる”感情のスペクタクル″と呼ぶのにふさわしい。

芸術の都ウィーンが誇る“偉大なる美術館”-ウィーン美術史美術館。
そこで繰り広げられる、誰も見たことがない“美の裏側”

645年間君臨したハプスブルク家の歴代皇帝たちが蒐集した膨大な数の美術品を所蔵し、今年で創立125周年を迎えたウィーン美術史美術館。収蔵作品は、クラーナハ、フェルメール、カラヴァッジオ、ベラスケスなどの名画から絢爛豪華な美術工芸品まで多種多彩。なかでも傑作 「バベルの塔」をはじめとしたブリューゲル・コレクションは世界最多を誇る。創立120年の節目に当たる2012年からスタートした大規模な改装工事に2年以上にわたり密着した製作陣は、ナレーションやインタヴュー、音楽を一切排したダイレクトシネマの手法を用いて撮影。豪奢な天井画や壁画などまるで宮殿のような豪華な装飾とともに、改装工事の様子、美術品の収蔵庫、修復作業場、閉館後の館内や会議室など、ふだん見ることのできない美術館の姿をとらえていく。“偉大なる美術館”の裏側とそこで働く人々の姿を丁寧に描いた、芸術の世界をたっぷりと堪能できるドキュメンタリー映画。

移りゆく東京の街の風景のなかで、見ず知らずの他人を尾行し、
いつしか禁断の行為にはまっていく—

珠は哲学科の大学院に通う平凡な大学院生、恋人卓也と暮らす日々は穏やかなものだった。ところがそんな日々は、担当教授から卒論の題材に〝哲学的尾行”の実践を持ちかけられたことで一変する。半信半疑で始めた隣人石坂への尾行だったが、やがて珠は、他人の秘密を覗き見る興奮から抜け出せなくなっていく―。尾行する女、される男、そしてふたりを見つめる新たな視線…。珠を待ち受けるものとは。

まるでドキュメンタリーを見ているかのようなリアルな映像に、登場人物達の視線が入り混じり、尾行による高揚感と胸騒ぎをスリリングに体感させてくれる。それぞれの“二重生活”の向こう側に見えてくる孤独が浮き彫りにされ、気付けば自らの日常が浸食されていく。これはひとりの女性の心の成長物語。知的興奮を呼び覚ます、全く新しい心理エンターテインメントの誕生。

住み慣れた我が家を売るべきか?売らざるべきか?
ふたりと愛犬の最低で最高の週末が始まる―

画家のアレックスと妻ルースが暮らすのは、ニューヨーク、ブルックリン。街を一望できる部屋は日当たりも抜群、愛犬ドロシーを交えた家族生活は順風満帆!けれど唯一の欠点はエレベーターがないこと。ある日ルースは、5階までの道のりがつらくなってきた夫と愛犬のためにもと、この“眺めのいい部屋”を売ることを決意した。アレックスの戸惑いをよそに、姪っ子の敏腕不動産仲介人によって瞬く間にオープンハウスの手筈も整い、内覧希望が殺到する。ところがその前日、愛犬ドロシーが急病に、さらにご近所ではテロ騒ぎが勃発!ドロシーの容態は、テロの動きは、そして不動産交渉の行方は!?

ハリウッドきっての名優モーガン・フリーマンとアメリカを代表する名女優ダイアン・キートン。共演の企画を探していた二人が巡り合ったのは、ロサンゼルスタイムズから「ほとんど完璧な小説」と評されたロングセラー「眺めのいい部屋売ります」の映画化。紆余曲折ありがならも長年連れ添った夫婦の心の機微を名優二人が軽やかに演じ切り、物語に深みを添えている。 さりげない日常の暮らしの中から、あなたにとってきらめくような大切ななにかがきっと見つかる、そんな大人の物語。

ふたつの魂が出会い奇跡を起こした、
もうひとつのヘレン・ケラー物語

聴覚障がいの少女たちが暮らす修道院に、目も耳も不自由な少女マリーがやってきた。教育を一切受けずに育ったマリーは野生動物のように獰猛で誰にも心を開かない。不治の病を抱え余命いくばくもない修道女マルグリットは、残された人生をかけてマリーに“世界”を与えるべく教育係となる。困難の末ついにマリーが言葉を知る日がやってくるが、二人の別れの時間は目前に迫っていた――。

手塚治虫が嫉妬し、世界が認めた、辰巳ヨシヒロの世界
哀しみも屈辱も感動も、全て彼がマンガに持ってきた

深みのあるリアルな絵と、高度な心理描写、笑いを排除した大人のためのストーリーマンガ「劇画」を創り出し、高度成長期の日本の光と影をひたむきに描き続けた辰巳ヨシヒロ。 彼の代表的な5つの短編とともに、その劇的な半生と日本の真実が明らかになる。

アメリカンドリームの頂点からどん底に。
まだまだ夢見るジャッキー。宮殿はどうなる!?

元モデルにして限りなくグラマラスを追及する女、ジャッキー・シーゲルと共和党からジョージ・W・ブッシュを大統領にのし上げた男、デヴィッド・シーゲル。タイムシェアで巨万の富を得た夫妻は、総工費100憶円をかけ、ベルサイユ宮殿を模したアメリカ最大の自宅の建築を決意した。

10のキッチン、30のバスルーム、500人収容のパーティーホール、はては映画館や水族館、25mの滝まで擁したベルサイユ宮殿の建築は順調に進み、ふたりはアメリカンドリームの頂点に立つ目前だった。そんな折、ふたりを襲ったリーマン・ショック!デヴィッドの会社は崩壊の窮地に。しかし、深刻な事態をどこまで理解しているのか、ジャッキーの出費は止まらない。ファーストフードのドライブスルーに運転手つきのリムジンで乗り付けておきながら、自らを“一般人”と呼ぶハチャメチャっぷり。金策に奔走し、追い詰められていくデヴィッドとの溝は深まるばかり。果たしてどうなるのか、このふたり。ベルサイユ宮殿はまだまだ建築中…。

心の底に沈んだ記憶と秘めた思いが蘇るとき、謎は、さらなる謎を呼ぶ。

前作『別離』で第84回アカデミー賞外国語映画賞、ベルリン国際映画祭金熊賞をはじめ、世界の映画祭で90冠以上を受賞したアスガー・ファルハディ監督。緻密な脚本と人間の複雑な深層心理を掘り下げて描く人間ドラマには、ウディ・アレン、スティーヴン・スピルバーグ、ブラッド・ピットから賞賛が送られ、アンジェリーナ・ジョリー、メリル・ストリープからも作品の出演リクエストを受ける、現在最も注目を集める映画監督である。イランを舞台に現代社会の縮図を描いてきた彼が、はじめて外国にカメラを据えて挑んだ意欲作が『ある過去の行方』だ。

別れゆく男女にもたらされた、衝撃の告白。
過去に忠実であるべきか。それとも、未来へ向かって進むのか。
フランス人の妻マリー=アンヌと別れて4年。今はテヘランに住むアーマドが正式な離婚手続きをとるためにパリに戻ってくるが、マリー=アンヌはすでに新しい恋人サミールと彼の息子、娘たちと新たな生活をはじめていた。しかし、娘のひとりがアーマドに告げた衝撃的な告白から、妻と恋人、その家族が背負う過去と明らかにされなかった事実が次々と浮かび上がる――。

いま、刑務所はローマ帝国へと変貌する

ベルリン映画祭では見事に金熊賞グランプリ、エキュメニカル審査員賞も併せてW受賞
巨匠タヴィアーニ兄弟監督が、マジカルな演出によって創り上げた映画の奇跡。
2012年映画界を代表する傑作がいよいよ日本公開

イタリア、ローマ郊外にあるレビッビア刑務所。ここでは囚人たちによる演劇実習が定期的に行われている。毎年様々な演目を囚人たちが演じて、所内劇場で一般の観客相手にお披露目するのだ。演出家ファビオ・カヴァッリが選んだ今年の演目は、シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」。早速、俳優のオーディションが始まり、配役が次々と決まっていく。
演じるのは重警備棟の囚人たち。本公演に向けて刑務所内の様々な場所で稽古が始まる…。ほどなく囚人たちは稽古に夢中になり、日常生活が「ジュリアス・シーザー」一色へと塗りつぶされていく。各々の監房で、廊下で、遊戯場で、一所懸命に台詞を繰り返す俳優たち=囚人たち。それぞれの過去や性格などが次第にオーバーラップし、やがて役柄と同化していく。
そこに立ち顕れるのは現実か、それとも虚構か。イタリアの巨匠監督パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ兄弟の映画人生の集大成とも言うべき傑作。