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MAJOR

INTRODUCTION

本年度アカデミー賞®外国語映画賞受賞

アスガー・ファルハディ監督と主演女優タラネ・アリドゥスティが、トランプ政権による入国制限命令への抗議のため、アカデミー賞®授賞式へのボイコットを表明したことで連日ニュース報道され、世界の注目を集めた『セールスマン』。その渦中、見事外国語映画賞を受賞し、国境や信教を超えて作品が高く評価されたことに世界中が胸を熱くした。ファルハディ監督は『別離』でも同賞を獲得しており、二度目の受賞という快挙を成し遂げたことになる。カンヌ国際映画祭でも脚本賞と男優賞をW受賞した本作は、全米では2017年1月にたった3館で限定公開されたが、その週の公開作品でアベレージ1位となる大ヒット・スタートを記録した。

世界が待ち望んだイランの名匠
アスガー・ファルハディ監督の新たなる傑作

今や世界的に最も新作が待ち望まれるフィルムメーカーのひとりアスガー・ファルハディ。『彼女が消えた浜辺』でベルリン国際映画祭銀熊賞に輝いたのち、『別離』では再びベルリンにて金熊賞と銀熊賞(男優賞、女優賞)の主要3部門を独占し、アカデミー賞Rの外国語映画賞を受賞。さらにカンヌ国際映画祭に出品された 『ある過去の行方』では、ベレニス・ベジョに女優賞をもたらした。緻密にして繊細な脚本と緊迫感あふれる語り口は、世界中から絶大な支持を獲得している。

観る者を“感情のスペクタクル”へと誘う圧巻のクライマックス!
日常が激変する心理サスペンス

教師エマッドとその妻ラナは、小さな劇団に所属し、俳優としても活動している仲の良い夫婦。ある日、エマッドの留守中に、引っ越して間もない自宅でラナが侵入者に襲われてしまう。警察に通報して犯人を捕まえたい夫と、表沙汰にしたくない妻の感情はすれ違い始める。やがて犯人は前の住人だった女性と関係がある人物だとわかるが・・・その行く手に待ち受けていた意外な真実とはーー。事件をきっかけにゆるやかに理性をかき乱されていく夫婦の葛藤を軸に、登場人物たちの思惑がスリリングに絡み合う心理サスペンス。復讐心に囚われたエマッドが"犯人"と対峙するクライマックスは、怒りや不安、悔恨の情がドラマティックに錯綜し、圧倒的な緊張感で描かれる"感情のスペクタクル"と呼ぶにふさわしい。

物語を重層的に響かせるアーサー・ミラーの戯曲「セールスマンの死」

アメリカを代表する劇作家アーサー・ミラーのピューリッツァー賞受賞作「セールスマンの死」。ファルハディ監督は、時代の変化に取り残されたこの戯曲の主人公であるセールスマンの境遇を、急速に近代化が進むイランの社会状況に重ね合わせた。劇中ではエマッドとラナが出演する「セールスマンの死」の舞台シーンが随所に挿入され、映画に豊かな奥行きを与えるとともに、現代的なライフスタイルと伝統的な価値観の狭間で生きる夫婦の姿が、リアルに綴られている。

STORY

教師のエマッドは妻ラナとともに小さな劇団に所属し、上演を間近に控えたアーサー・ミラー原作の舞台「セールスマンの死」の稽古に忙しい。思いがけないことで住む家を失った夫婦は、劇団仲間が紹介してくれたアパートに移り住むことにする。慌ただしく引っ越し作業を終え、「セールスマンの死」の初日を迎えた夜、事件が起こった。ひと足早く劇場から帰宅したラナが侵入者に襲われたのだ。この事件以来、夫婦の生活は一変した。包帯を巻いた痛々しい姿で帰宅したラナは精神的にもダメージを負い、めっきり口数が少なくなった。一方、エマッドは犯人を捕まえるために「警察に行こう」とラナを説得するが、表沙汰にしたくない彼女は頑なに拒み続ける。 立ち直れないラナと、やり場のない苛立ちを募らせるエマッドの感情はすれ違い、夫婦仲は険悪になっていった。そして犯人は前の住人だった女性と関係がある人物だと確証をつかんだエマッドは、自力で捜し出すことを決意するのだが・・・

CAST

シャハブ・ホセイニ(エマッド・エテサミ)Shahab HOSSEINI

シャハブ・ホセイニ(エマッド・エテサミ)
Shahab HOSSEINI

1974年、イラン・テヘラン生まれ。テヘラン大学で心理学を専攻するが、中退してカナダに移り住む。その後、イランに戻ってラジオやテレビ番組の司会を務め、いつくかのTVシリーズで小さな役をこなしたのち、『Rokhsareh』(02)で映画デビューした。アスガー・ファルハディ監督とは『彼女が消えた浜辺』(09)で初めて組み、『別離』(11)でベルリン国際映画祭銀熊賞(男優賞)を受賞。本作ではカンヌ国際映画祭男優賞に輝いた。そのほかにも数多くの受賞歴があり、2014年には『Saken Tabaghe Vasat』で監督デビュー。2015年に放送されたイランの国民的TVシリーズ「Shahrzad」では、タラネ・アリドゥスティと夫婦役で共演し、同国を代表する人気スターとして揺るぎない地位を築いている。

タラネ・アリドゥスティ(ラナ・エテサミ)Taraneh ALIDOOSTI

タラネ・アリドゥスティ(ラナ・エテサミ)
Taraneh ALIDOOSTI

1984年、イラン・テヘラン生まれ。17歳の時に出演したロカルノ国際映画祭審査員特別賞受賞作『I am Taraneh, 15 Years』(02)で女優のキャリアをスタートさせた。アスガー・ファルハディ監督とは『美しい都市』(04・未)、『火祭り』(06・未)、『彼女が消えた浜辺』(09)でも組んでおり、本作が4本目の出演作となる。2017年1月、ドナルド・トランプ米国大統領が発令したイスラム国家7ヵ国の入国制限に反発し、アカデミー賞授賞式へのボイコットをTwitterで表明したことも大きなニュースとなった。

STAFF

監督・脚本 アスガー・ファルハディ
Written and directed by Asghar FARHADI

1972年イランのイスファハン出身。イランのヤングシネマインスティテュートに学んだ後、テヘラン大学でも映画を専攻。大学在学中にいくつもの学生演劇の台本を書き、自ら演出を手がける。この経験が、その後制作する映画のスタイルに大きな影響を与える。卒業後、1996年よりタルビアト・モダレス大学の舞台監督コースの修士課程に学ぶ。大学入学から10年に及ぶ修業時代に、短編6本を撮りあげ、連続テレビドラマの演出や脚本を手がけた。2002年、エブラヒム・ハタミキア監督の大ヒット作「フライト・パニック~ペルシア湾上空強行脱出~」に共同脚本家として参加し商業映画への道を拓く。2003年には、長篇映画「砂塵にさまよう」で監督デビューを果たし、国内のファジル国際映画祭において審査員特別賞を受賞後、モスクワ国際映画祭最優秀男優賞、ロシア映画批評家協会作品賞、アジア太平洋映画祭監督賞、脚本賞を受賞する。2004年、長篇2作目の「美しい都市」を発表。前作同様ファジル国際映画祭で受賞、その後もワルシャワ国際映画祭でグランプリを受賞するなど国内外で高い評価を得る。2006年に3作目の「火祭り」を発表。ファジル国際映画祭で最優秀監督賞を始め3つの賞を受賞し、海外でもシカゴ国際映画祭最優秀作品ゴールドヒューゴ賞、ナント三大陸映画祭脚本賞を受賞。2009年に発表した『彼女が消えた浜辺』では、心理サスペンスに満ちた群像劇で観客を魅了し、ベルリン映画祭監督賞を受賞。フランスでも大ヒットして10万人を動員した。その後、2010年に『別離』を発表し、ベルリン国際映画祭作品賞、女優賞、男優賞の3冠に輝いた。その後アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、セザール賞の外国語映画賞をはじめ、世界各国で70以上の賞を総なめにした『別離』は、世界各国で大ヒットとなり、2011年には、タイム誌で最も影響力のある100人のひとりに選ばれた。2013年、『ある過去の行方』を発表。フランスで公開されると100万人動員の大ヒット、同年のカンヌ国際映画祭でべレニス・ベジョが、主演女優賞を受賞した。2016年には、本作『セールスマン』を発表し、カンヌ国際映画祭主演男優賞、脚本賞をW受賞。アカデミー賞外国語映画賞の最有力候補との呼び声も高い。現在、映画監督ペドロ・アルモドバルプロデュースでスペインを舞台にした長篇映画の脚本を執筆中、今世界が最も注目する監督のひとりである。

COMMENT

役者夫婦の妻が男に襲われる。急速に近代化する都市の顔の下に、根強く残る古い価値観の壁が、その事件をきっかけに二人を引き裂いて行く。息詰まるサスペンスで、巧みに現代の病巣を包み込んだ監督の手腕は魔術のようだ。

 赤川次郎(作家)

妻を突然襲った衝撃的な事件が、仲の良かった夫婦の間に溝をつくり、復讐に燃えた夫の前に現れたのは!! サスペンスの裏女王といわれる私にも、全く推理出来なかった、衝撃の結末!!? 是非、カップル、ご夫婦で、観て頂きたい作品です。

 山村紅葉(女優)

現実的には起きえない出来事を、凄まじい迫真力でグイグイ引き込んでいく監督の演出力の凄さを感じさせる映画である。とても面白かった!!

 田原総一朗(ジャーナリスト)

見えない娼婦アフー、見せられない性犯罪、ファルハディの新作は巧妙に隠された政治批判が風味を放つ、知的でテンポの速いスリラーだ。アメリカが赤狩りで揺れた時代の戯曲「セールスマンの死」と合わせ鏡のテヘランの今が秀逸。

 原田眞人(映画監督)

復讐心をここまできめ細かく、淡々と表現したシャハブ・ホセイニさんに拍手。リメイクは不可能だと思います。それにしてもスイッチ入れたら電球割れるってうちの中東の家でもよくあったので懐かしかったです笑

 川上洋平([Alexandros] Vocal&Guitar)

イランの若くて才気あふれる舞台役者は、アメリカの老いたセールスマンの悲哀を演じきることができるか。イランの現実の社会とアメリカの虚構の舞台のぶつけかたが、ハッとするほどスリリングである。

 青山南(アメリカ文学者)

どうしてこんなささいな場所と人間関係だけで、観る者を汗だくにしてしまう映画が出来るんだろう。文化も生活も信じるものも大きく隔たりが在るはずなのに、アスガー・ファルハディ監督の物語はすべてを容易に飛び越えて来る。私がこの映画の登場人物だったとしても、きっと同じ落とし穴にはまり、同じように自らを失うに違いない。

 西川美和(映画監督)

実にリアルな演技によって気がつかないうちに引き込まれていた。
日常的なドラマの中の普遍的なテーマについて、主人公と一緒に真剣に悩みました。

 ピーター・バラカン(ブロードキャスター)

急激に変化するイラン。ひと組の夫婦が、妻へのナゾの暴行事件をきっかけにスレ違っていく。
夫は自らの名誉のため犯人を追いつめ、妻は犯人を許そうとする。夫が手にしようとしたのは何だったのか?深く、静かに考えさせられる。

 安藤優子(ジャーナリスト)

“涙腺にくる”ティーン映画、“心臓にくる”バイオレンス映画、“頭にクル”ブロックバスター映画が大量消費される中、彼の作品は“腹にくる”。家族の秘密から破綻してゆく日常、そこに潜む不穏な痛み。そのサスペンスは劇場を出てからも消化されず“腹に のこ る”。目でも心でも頭でもなく、腹に溜まり続ける。それがアスガー・ファルハディの「セールスマン」。

 小島秀夫(ゲームクリエイター)

並走する「セールスマンの死」を省いたら、映画は単によく出来たミステリー・サスペンスであったかもしれない。でも、危険で矛盾だらけの現代イランの家庭劇が「セールスマンの死」という67年も前のドラマ世界に照射されて、深い重低音の余韻を響かせることになった。泉下のアーサー・ミラーはきっと惜しみない拍手を送ることだろう。

 酒井洋子(翻訳家・演出家)

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