傑作「死の棘」を世に放った島尾敏雄と、その妻、島尾ミホ。時は太平洋戦争末期、ふたりが出会ったのは、圧倒的な生命力をたたえる奄美群島・加計呂麻島。男はじりじりと特攻艇の出撃命令を待ち、女はただどこまでも一緒にいたいと願った。後年、互いに小説家であるふたりがそれぞれ描いた鮮烈な出会いと恋の物語を原作に、奄美大島・加計呂麻島でのロケーションを敢行し、映画化を果たした。また、奄美群島で古くから歌い継がれてきた奄美島唄の歌唱指導にあたったのは、“クジラの唄声”で人々の心を魅了する唄者(ウタシャ)朝崎郁恵。自身もルーツを奄美大島に持つ満島ひかりが歌う島唄の調べが、観る者の心を揺さぶる。
『愛のむきだし』でブレイク後、『川の底からこんにちは』『悪人』『駆込み女と駆出し男』『愚行録』など一作ごとに評価を高め、テレビドラマ「トットてれび」「カルテット」で、唯一無二の女優として活躍の場を広げる満島ひかり。そんな彼女が『夏の終り』以来4年ぶりの単独主演作に選んだのが『海辺の生と死』である。日本文学の傑作「死の棘」のヒロイン島尾ミホが加計呂麻島で過ごした青春期と人生を決定づけることになった恋をその真っ直ぐな存在感で体現した。