登場人物

ジャン=ポール・サルトル Jean-Paul Sartre

パリ生まれの作家、哲学者。2歳で父を亡くし母方の教養ある祖父に預けられ学問的に刺激を受ける。高等師範学校卒業後、哲学教師となり1938年小説「嘔吐」で作家デビュー。1943年の哲学書「存在と無」によって哲学者としての地位を確立。“実存主義”を世に広めアンガージュマン(社会参加)を標榜し、政治活動や社会運動にも積極的に参加。戦後から1960年代にかけて世界中の若者に大きな影響を与え、日本にも1966年にボーヴォワールと共に来日し、当時の学生運動の思想的なバックボーンとして絶大な人気を誇った。「蝿」(43)や「出口なし」(45)など多くの戯曲も書いている。1964年ノーベル文学賞に選ばれながら辞退。1974年、斜視が原因で失明。1980年、肺水腫により死去した時は、5万人の人々が彼の死を悼んだ。

シモーヌ・ド・ボーヴォワール Simone de Beauvoir

パリ生まれの作家、哲学者。上流家庭ながら貧しい家に生まれ、父親からは常に自立を求められる。また父から虐げられる母の姿を見て、社会における女性の立場に疑問を持ち始め、幼い頃より作家を志す。ソルボンヌ大学卒業後、哲学教師をしながら書いた小説「招かれた女」(43)でデビュー。その後も小説や戯曲を次々発表。1949年に実存主義の立場から女性を論じた「第二の性」を発表すると、当時の社会通念を根底から覆し、賛否両論の大きな反響を呼ぶ、現代のフェミニズムやジェンダー論の出発点となった。自身も女性の幸福のために社会の因習や偏見と闘い、自由恋愛から同性愛まで現在につながる新しい愛の形を実践した。その後も自伝的な「娘時代」(58)や老いと死を考察した「老い」(70)、サルトルの衰弱と死を冷静に記述した「別れの儀式」(81)などを発表。1986年死去。

ネルソン・オルグレン Nelson Algren

ミシガン州生まれの作家。「朝はもう来ない」(42)、映画化もされた「黄金の腕」(49)、「荒野を歩め」(56)などの小説で評価を受け、1950年全米図書賞を受賞。長身で男性的な魅力に溢れ、ボーヴォワールはオルグレンによって女性としての“歓び”を知る。1969年に来日。

ポール・ニザン Paul Nizan

作家、哲学者。サルトルとアンリ四世校で出会い、共に高等師範学校に進んだ親友同士。「陰謀」「アデン、アラビア」などを著わす一方、共産党に入党し反戦、反ファシズム運動に参加する。第二次世界大戦で命を落とす。

アルベール・カミュ Albert Camus

小説家、劇作家。小説「異邦人」(42)で注目され、「カリギュラ」「誤解」などで劇作家としても活動。小説「ペスト」はベストセラー、エッセイ「反抗的人間」は賛否を巻き起こす。1957年史上二番目の若さでノーベル文学賞受賞するが、1960年交通事故により急死。

フランソワ・モーリヤック François Mauriac

作家。1922年「癩者への接吻」で小説家としての地位を確立。敬虔なカトリック信者の母に育てられ、戦後は生地ボルドー地方の風物や古い因習を背景に、人間の内面や神との関係などを独特の手法によって表現し、1952年ノーベル文学賞を受賞。

ネルゴン Nergon ※実名はシャルル・デュラン Charles Dullin

演出家、劇団主宰者、俳優。1921年アトリエ座を組織し、1924年の『ヴォルポーヌ』が大ヒット。1931年ジャン=ルイ・バローを迎え入れる。1941年ナチス占領下の市立劇場支配人となり、1943年サルトルの『蠅』を上演。1949年、膵臓癌で死去。

言及される人物

アンドレ・ジッド André Gide

作家。1893年以降度々訪れた北アフリカで娼婦との交流や同性愛を体験し、文学者としての転機となる。キリスト教倫理からの解放を訴えた作品はフランス哲学・文学に多大な影響を与え、「地の糧」(98)「背徳者」(02)「狭き門」(09)「田園交響楽」(19)などを著わす。1947年にノーベル文学賞を受賞。

エトムント・フッサール Edmund Husserl

オーストリアの数学者・哲学者。諸学問の基礎として哲学に関心を持ち、「現象学」を提唱。20世紀哲学の大きな流れとなり、ハイデッガー、メルロー=ポンティ、サルトルらに継承され、政治や芸術の世界にも広く影響を与えた。

マルティン・ハイデッガー Martin Heidegger

フッサールから学んだ現象学の手法を用いて存在論を展開したドイツの哲学者。後の実存主義などにも多大な影響を与え、その成果は多岐に渡り20世紀の世界の哲学・人文諸科学に重要な役割を果たす。

アンドレ・マルロー André Malraux

小説家。「西洋の誘惑」(26)でデビューし、「征服者たち」(28)「王道」(30)「人間の条件」(34)などを発表。スペイン内戦に義勇兵として参加し、「希望」(38)を著わす。ド・ゴール政権では文化大臣として活躍。

ジャン・ジュネ Jean Genet

作家、詩人、エッセイスト、劇作家。1942年初の詩集「死刑囚」を自費出版、その後「女中たち」「泥棒日記」、「バルコン」、「屏風」などの小説や戯曲を執筆。五月革命や反戦運動、中東問題など多くの政治活動、社会問題にも参加する。

モーリス・メルロー=ポンティ Maurice Merleau-Ponty

哲学者。大学在学中にサルトル、ボーヴォワールらと知り合う。1945年「知覚の現象学」「行動の構造」を発表。1946年「レ・タン・モデルヌ(現代)」創刊で重要な役割を果たす。1961年パリの自宅で執筆中、心臓麻痺で死去。

モーリス・シュヴァリエ Maurice Chevalier

フランス出身の俳優、歌手。舞台芸人としてスタートし、1929年にハリウッドで俳優デビュー。その後も有名監督の作品に多数出演し、アメリカのみならず世界を魅了。絶大な人気を誇った稀代のエンターテイナー。