『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』は、ドイツが誇る世界の巨匠ヴェルナー・ヘルツォーク監督による稀有な映画である。1994年南仏で発見されたショーヴェ洞窟、その奥には3万2千年前の洞窟壁画が広がっていた。フランス政府は貴重な遺跡を守るため、研究者や学者のみに入場を許諾してきた。ここに初めてヘルツォーク監督率いるスタッフが入り、3Dカメラによる撮影を敢行した。出来上がった映画は、2010年のトロント国際映画祭でワールドプレミア上映されて注目を浴びた。翌11年のベルリン国際映画祭に特別招待されて、ヴィム・ヴェンダース監督作品『PINAピナ3D 踊りつづけるいのち』とアート3D対決を繰り広げて大きな話題を呼んだ。アメリカ公開でも、インディペンデント配給ドキュメンタリー映画としては2011年興行収入第1位、オールタイムのドキュメンタリー映画歴代興収26位に入り、大ヒットとなった。その後も、モスクワ国際映画祭、東京国際映画祭などで招待上映され、ニューヨークやロサンジェルスなどの映画批評家協会賞最優秀ドキュメンタリー作品賞を受賞。3万年前の絵画の驚くべき美しさと現代技術が共鳴し実現した、時空を超える夢とロマンのワンダーランドがついに日本公開となる。
監督のヴェルナー・ヘルツォークは『生の証明』でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞して、ニュー・ジャーマン・シネマの旗手として世界に存在を知らしめた。以降、カスパー・ハウザーの謎』(74)でカンヌ国際映画祭審査員グランプリ、『フィツカラルド』(82)でカンヌ国際映画祭最優秀監督賞などを受賞、近年は『グリズリーマン』でニューヨークや全米映画批評家協会の最優秀ドキュメンタリー作品賞を受賞し、“Encounters at the End of the World”でアカデミー賞ドキュメンタリー作品賞候補になるなど、フィクション、ノンフィクションの境界を超える世界の巨匠として活躍を続けている。 本作でも、3万2千年前に見事な洞窟壁画を描いた無名のアーティストたちへ思いを馳せ、その描く心のありようにまで迫り、現代最先端の映像テクニックを駆使して、現代文化と今では理解しえない太古の文化の出会いをヴィヴィッドに浮かび上がらせている。ヘルツォークが描いてきた様々なモティーフやテーマが見事に溶け込み昇華されて、固有でユニークな映画として創り上がっている。
ショーヴェ洞窟
1994年12月、南フランスで三人の洞穴学者が発見。隊長のジャン=マリー・ショーヴェにちなんで命名された。洞穴には美しい壁画が広がり、最古のものは3万2千年前に描かれたと判定された。それは1万5千年前に描かれて最古とされていたラスコー壁画をさらに1万7千年遡る。フランス政府はその重要性を鑑み、認定された一部の学者や研究者を除き、一切非公開の姿勢を貫いてきた。2007年にはユネスコが認定する世界遺産「暫定リスト」に登録。現在、正式登録が待ち望まれている。 洞窟内の壁画は、260点の動物画を含む、総数300点以上が発見されている。現在のヨーロッパでは絶滅した野生の牛、馬、サイ、ライオンなど13種類の動物が描かれ、従来知られていた氷河時代の洞窟壁画では稀有なフクロウやハイエナやヒョウなども含まれる。画の技法はスタンプ、吹き墨が使われている。