与那国島を舞台に、82才の老人が巨大カジキと格闘する勇気と感動のドキュメンタリー。ヘミングウェイの世界を彷彿とさせる日本版「老人と海」。

映画『老人と海』公式サイト

解説

監督:ジャン・ユンカーマン(John Junkerman)
監督:ジャン・ユンカーマン(John Junkerman)

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ヘミングウェイの『老人と海』を映画化することについて

ヘミングウェイはアメリカでは特別な小説家です。僕は中学生の頃に『老人と海』を読みましたが、ただただ老人が毎日海に出て、なかなか魚が釣れないという、その何の変哲もない実話だけで小説を書いてしまうのだから、すごい小説家だと感心したのを覚えています。アジア版『老人と海』の映画化の話を聞いた時、この小説のドキュメンタリー映画を作ると言っても、普通のドキュメンタリーでは成り立たないんじゃないかと思いました。『老人と海』と似たような質の映画を作りたかったので、ナレーションは使わず、解説じみたインタビューもほとんどせずに、「ある漁師の日常を追っていく中でドラマを見つけていく」という方針で撮影をスタートしました。

与那国島の風習や文化を本編に入れた意図は何ですか?

与那国島の風習や文化を本編に入れた意図は何ですか?

毎日の日常の中でじいちゃんは生きているわけで、その日常には、ハーリー祭や金比羅こんぴら祭があります。島の人たちは与那国島の伝統的な文化や風習をすごく大事にしているんです。ハーリー祭は島民の繋がりを深めるものとしてもとても大事。あれはただの競技ではなく、海の神様に漁を感謝し、安全を祈願することから始まっていて、町を挙げて島の人たちが参加します。だからハーリー祭などを撮ることで、漁で生きるということがどういうことなのかを客観的に見せているんです。また、島には地域コミュニティの結びつきがきちんと残っていて、漁師が魚を大量に捕れば、農家の家族に魚をわけ、逆にその家族から米を貰ったりと、とても自然な生き方をしています。本編に入れましたが、じいちゃんも、魚が一匹も釣れなかった時には他の漁師から魚を分けて貰っていましたね。

20年経った今、この映画を再び公開することについて

20年経った今、この映画を再び公開することについて

今はもう、サバニを使った昔ながらの漁法をする人はいません。当時もじいちゃん以外はいなかった。20年経って変わらないこともあるけど、都会に住んでいる僕たちは、自然と共に生きるということをだんだん忘れてきているか、もしくは経験がなくてわからないんですよね。だから、僕がこの映画を撮れて本当に良かったと思うのは、それを与那国島で経験できたことです。何が大事かということと、何もないようなところでも幸せに生きられるということ。
サバニは不思議な舟で、小さくて脆く、危なく見えるんだけど、波乗りにはとても良いんですよね。漁をするには苦労するんだけどある意味ではとても合っていて、カジキが糸に掛かるとまず引っ張られるから、船の方向をすぐに変えなきゃいけないんだけど、サバニはそれが自在にできます。

カジキが大きい船を引っ張ろうとしても無理だから、漁師に負担がかかるんです。そういうことを比喩的に考えると、近代の生活の中で僕たちはみんな大きい船に乗っていて、大きい船を動かすには燃料も使うし、複雑なことも沢山ある。小さい舟でシンプルな生活をすると、もっと簡単に楽に生きることができるんだってことだと思います。