ジャン=ポール・サルトルは“実存主義”を世に広め、60年代には“知の巨人”として世界中の若者に大きな影響を与えた作家であり哲学界のスーパースター。そしてシモーヌ・ド・ボーヴォワールは「第二の性」でジェンダー論の基礎を作り、女性の幸福のために社会通念や偏見と闘い、自由恋愛から同性愛までを実践した作家であり哲学界のミューズだ。1929年、学生だった二人は、ソルボンヌ大学で運命的な出会いを果たす。そして生涯を通じて影響を与え合い、やがて世界的に有名になった二人は“理想のカップル”と称され、1980年のサルトルの死まで今で言う“事実婚”のパートナーとして支え合った。
サルトルは出会った瞬間からボーヴォワールの美しさと聡明さに心を奪われる。そして二人はすぐにお互いの中に自分と共通するものを見出し、次第に無くてはならない存在になってゆく。しかしサルトルはボーヴォワールに、将来への愛を誓いながら他の相手との関係も認め合い、その詳細を嘘偽りなく報告し合うことを提案する。自由恋愛による“契約結婚”である。女には結婚と独身しか選択の余地が無いという世間の因習に疑問を抱くボーヴォワールは、迷いながらもそれを受け入れる。サルトルはその後多くの女性と関係を持ち、ボーヴォワールは苦悩しながらも、やがて自ら新しい愛のかたちを実践してゆく。
本作は20年代モンパルナスを中心に興った“狂騒の時代”末期から、1945年以降サン・ジェルマン・デ・プレを中心に戦後の新しい文化が生まれた時代を描き、その華やかなファッションやインテリアなどにも注目だ。またその時代を共に生きたカミュ、ジュネ、モーリヤック、マルロー、ジッドなどの著名人たちが登場し、彼らの日常を垣間見られるのも楽しみのひとつだろう。日本ではここ数年、哲学が静かなブームになっているが、哲学界に大きな足跡を残し、世界中に大きな影響を与えた最重要人物ジャン=ポール・サルトルとシモーヌ・ド・ボーヴォワールの、知られざる愛の物語が今、明らかになる。