1929年、ソルボンヌ大学に通うシモーヌ・ド・ボーヴォワールは、学内で天才と噂される有名人ジャン=ポール・サルトルから話しかけられる。サルトルはボーヴォワールの美しさと聡明さに一瞬にして恋に落ち「理想の女性だ」と宣言する。はじめは警戒していたボーヴォワールも、サルトルの中に自分と似たものを見出し次第に打ち解け、やがて二人は1級教員資格を目指して一緒に勉強をするようになる。試験はサルトルが首席でボーヴォワールが次席、しかもボーヴォワールは歴代最年少での合格だった。
サルトルはボーヴォワールが訪れている田舎町に向かっていた。ボーヴォワールは自分を追いかけて来たサルトルに感動し、両親の目を盗んで一夜を共にする。普段から父が母をまるで召使いのように扱う事に疑問を感じていたボーヴォワールは、家を出て哲学の教師として働き始めたサルトルと暮らす事を決意する。そんな時、母親から結婚話を押し付けられていた親友ローラの死を告げる手紙が届く。原因不明で死んだローラの亡骸と対峙したボーヴォワールは、ブルジョワ階級が持つ偽善的な倫理観とカトリック独特の道徳を心から軽蔑し憎んだ。
サルトルとの生活の最初の日、ボーヴォワールは思ってもみなかった提案を受ける。それはお互いに将来も含め愛し合いながら、他の関係も認め合うという自由恋愛で、しかも他の関係について嘘偽り無く全てを報告し合うというものだった。作家には刺激が必要だというサルトルの主張には納得出来なかったが、ごまかしに満ちた小市民的な結婚ではない“契約結婚”という説得に、結婚か独身しか女性にとって選択肢が無い社会の伝統に疑問を抱いていたボーヴォワールは、受け入れる事にする。しかしそれはボーヴォワールの深い苦悩の始まりだった。