1960年代後半、電機メーカー各社から最初期のビデオテープレコーダの市販(主に学校・教育施設や企業、ホテルやモーテルおよび遠洋漁業の船舶向け)が開始されると同時に、映像各社がビデオテープレコーダで視聴するためのビデオソフトを制作し始める。その頃より少数ながら海外や国内のポルノ映画・ピンク映画を収録したビデオソフトが作られ、主にホテルやモーテル向けに販売・貸出しが開始された。一般的にこれらのソフトは「アダルトビデオ」の範疇には含まれないが、ビデオテープレコーダを持っていれば、非常に高価ながら個人的にも販売・貸出しを受けられたことから、そのルーツといえるものである。
これらのポルノビデオは、当時フィルム撮影された映画を1/2インチビデオに落としたもので低画質であったことから、代々木はプロ用の1インチビデオで「愛染恭子の本番生撮り 淫欲のうずき」を撮影。生撮りというネーミングと画質の良さでヒットする。そしてビデオの特性である長時間撮影が出来ることを活かして生々しい女性の姿を納めることに成功した「ドキュメント ザ・オナニー」が爆発的なヒット。それがAVの産業としての礎を築く事になる。代々木の製作会社アテナ映像はその後もヒットに次ぐヒットを連発した。その頃、度重なる摘発を受けていたビニール本の出版社がアテナ映像の成功を目の当たりにして、カメラをビデオに持ち替えて続々と映像業界に参入し、多くのAVメーカーが誕生し、急速にAVが普及してゆく。
AV普及の要因のひとつは1980年代初頭より家庭用のビデオデッキが廉価になり買い求めやすくなったことがある(逆にAVの登場がビデオデッキの普及率に貢献したとも言われている)。同時にビデオソフトを貸し出すレンタルビデオのシステムが確立され、レンタル店が増加し、安価で自宅鑑賞出来る環境が整った事で、ビデオ作品は急速に発展する。消費者は自宅のテレビ画面の前で自慰行為が可能となり、その事によって作品に即物的な絡みのシーンが求められるようになる。これは映画において重視されていたストーリーの軽視につながり、映像文化としては衰退を指摘する者もいる。この頃より問屋や小売業者は、レンタル業界で頻発する警察の摘発を避けるために自主審査機関、日本ビデオ倫理協会(ビデ倫)に加入しないメーカーの作品を取り扱わないようになり、レンタル系のAVメーカーが主流になってくる。
レンタル利用者の爆発的な増加により当時まだ高額だったセルビデオとポルノ映画の興行が次第に衰退してゆく一方で、より一層の需要を掘り起こすために質が上がってきたモデルを前面に押出してAV女優のカタログ化が進み、淫乱ブームや巨乳ブームなどがわき起こる。中でも話題をさらったのが、教養と美貌を兼ね備えた黒木香を主演に据えた「SMっぽいの好き」だ。黒木と男優として出演もした村西とおる監督による二人の掛け合いが、抱腹絶倒の面白さを醸し出すと同時に、黒木香の理性が生々しくはがれ落ちていく様が文化人をも巻き込んで話題となり、二人はテレビに出演をするようになる。こうしてAVが一般社会に受け入れられ、豊丸、秋元ともみ、早川愛美、そして飯島愛などが、一般メディアでも活躍するようになる。
90年代中頃からレンタル系AVメーカーの自主審査機関、日本ビデオ倫理協会(ビデ倫)の審査を通さない、いわゆるインディーズAVが流通し始める。それらはレンタルではなく「ビデオ安売王」の台頭によって出来上がった独自の流通形態によってセルビデオとして発売され、その店舗は急増していった。中でも、新たに生まれたセルの販売網を受け継いだ高橋がなりによるソフト・オン・デマンドや北都といった新興セルメーカーは、独自の審査団体を設立する事により、ビデ倫と比較して審査基準の低いよりハードな表現を売りにして、レンタルメーカーとの勢力構造を逆転するほどの大手メーカーへと成長していった。それらの作品はすぐに消費者に受け入れられ、以後AVの流通が劇的に変わってゆく事となる。同時にセルメーカーがDVDによる制作をいち早く始めビデオカセットを駆逐してゆき、レンタルに固執していたビデ倫加盟メーカーの売り上げが次第に落ちてゆく事となる。そして内容的にもDVDの早送り機能の簡略化が、より一層即物的なSEXシーンの過激化につながってゆく。これに対しビデ倫加盟メーカーの強い要望を受けて06年に審査基準を緩和したビデ倫は、翌年モザイクの薄さを理由に「わいせつ図画頒布幇助」の容疑で摘発され08年に解散。ビデ倫加盟メーカーは、新たに設立された「日本映像倫理審査機構」に移行した。
00年以降はこれらの流れとは別にアメリカを経由した無修整の逆輸入裏ビデオが流通し始める。そしてDVDが主流になる04年以降には通販での購入も可能となる。さらにインターネットの時代になると海外に置かれたサーバーから通関のリスクもない動画配信によって、一方では厳しい審査により規制を受けているような無修整の映像を、日常生活の中で簡単に入手する事が出来るようになっている。 (協力:五十嵐健司)